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丸尾聡の死ぬまで日記 復活編

一本の木  ~入院日誌特別編~

どうにも「腐って」しまいそうな感じがした。
一時間で帰ると話して無理を言って、急な外出許可をもらう。
日曜日の人のまばらな病院を出て、川へ向かった。
さすがにパジャマははばかられたので、ジャージに着替えている。
最短距離を通れば、河原までは5分程だろうか。
新宿から箱根や江ノ島に続く線路の高架のところへ出るのだ。
右へ行けば川下。左へ向かえば川上である。
「どちらにいこうか」
一瞬考えたが、考えがまとまるかまとまらぬかのうちに勝手に足は川上へ向かっていた。河原には、人が溢れていた。
バーベキュウをしたり、サイクリングの途中で休んだり、釣をしたり、キャッチボール、サッカー、「芋煮会」の幟もあった。

入院日誌PA260034s

川端の掘立小屋のような売店で、酒を飲んだりラーメンを食べたりしている人たちもいる。この小屋の「経営者」たちは、この河原に住み着いている人たちだ。昔、地元の警察官が「あの人たちは・・・、まあ、特別だから」と言っているのを聞いたことがあった。

横目でそうした様子を見ながら歩いた。実は歩きなれた道である。鶴川街道の橋が架かる矢野口辺りから、この世田谷通りの橋あたりまでは、毎日のように歩いた時期があったのだ。

川上へ行くに従って河原の幅が狭くなり、人影も少なくなる。川の土手の上には整備された遊歩道があるが、わたしが歩いているのは、川のすぐ横の細い道で、川の水が増した時は水没する道だ。
もう誰もいないな、と思っていると良い音が聞こえた。ふと見ると和服を着て横笛を吹いている人がいた。会釈して通り過ぎる。
なにか忘れているような気がして、足がせいた。
左側の道の向こうに、ガムテープメーカーのスリーオンテックの工場が見えて、その忘れているものの正体に思いあたる。

「そうだ、この先にあるんだ」
それは、一本の木である。

昔、糖尿病の入院患者を登場人物に、病院を舞台の「Life Cycle」という芝居を書いた。わたしの書いたもののなかでは、存外評判が良くて、劇評がほめてくれたり、ある賞の最終候補になったり、再演をして地方公演もした。糖尿病患者たちの限られた生と、病院のベランダに作った巣を撤去されそうになっている鳩とその卵を重ねたあたりが良かったらしい。
その芝居の中で、入院患者たちが「花見」に行くシーンがある。楽しみにしていた花見だが、もう来年の花見へは行けそうにない。だが、そんなとき、季節外れの「花」が咲いていると一人の入院患者が言う。不思議なことに、その「花」は、見る人によって、様々な花に見えるらしい。彼らは看護婦と連れ立ち、花が咲いている木のもとへ向かう。
「立っているんだ。一本の木、まっすぐな木。ねえ、行こう」
「・・・ええ。行きましょう」

その木があるのだ。
もちろん芝居だが、わたしは散歩をしていたときに見つけたその木から、その話を書いたのだ。そして芝居のチラシも、その木のもとに集まった患者と看護婦の写真を使った。実際に、わたしがそこで撮影をしたのだ。初演と再演は4年ぐらい間が空いていたはずだが、再演の撮影の時も、木はそこにあった。

たしか、この先だったはずだ・・・

急ぎ足になった。
あるだろうか、まだ・・・

途中ホームレスの小屋をいくつか過ぎる。そういえばこの小屋の主たちにも、別の芝居で取材をした。

入院日誌PA260051s

これかと思う場所が、やはり違うということが何回か続いた。
更に進む。

入院日誌PA260054s

首から下げたストップウォッチを見る。運動のタイムを計るためのものだが、病院を出てからもう30分を過ぎている。
「通り越したか、もっとずっと先だったか・・・、それとも、切られてしまったのか」
最後にその木を見てから、さらに3年が経っているはずだ。

左手は土手に向かってこう配があり、草が勢い良く繁る。見落としたかもしれない。

入院日誌PA260055s

「時間がないな。そろそろ引き返そうか」
そう思ったときに、唐突に目の前がパカリと開けた。
そして、在った。

入院日誌PA260056s

少し走ったかもしれない。

木の右側の別れた幹が払われて少し不格好になっていたが、紛れもなくあの木だった。
しばらく眺めていたと思う。

平沼が看護婦の格好でこの木に登って遠くを見ていたことなど思いだす。
みなの笑顔を思いだす。芝居の様子と撮影の様子がだぶって、どうもなにがどちらでどうだったのか・・・。
そう、それは芝居の中のことだったり、撮影だったりしたけれど、この木は、希望の木だった。何を与えてくれるわけでもいない。だが、そこに在ることで、そこに屹立していることで、希望であったと思う。
そして、それが、また今、ここに残っていたことに、わたしはよく言い表せない感情を覚えた。葉の勢いが弱まり枝振りが変わっていたことも、かえってその気持ちを高ぶらせた。
「そうか、俺は、知らずこの木を見にきたのか・・・」
不思議であった。

入院日誌PA260061s

木は、地球の大本から根を生やしているような気がした。
やはり少し痩せていたが、そこに在った。
やはり嬉しかった。
誰かのこさえた木のベンチに腰掛け、下から見上げた。

うまく整理がつかないのと、誰かこの話しをわかる人間に何かを伝えたくて、小澤に電話をする。小澤は前回も今回もわたしの入院と生活を見て来て、この木のもとでの撮影にも2回とも参加した。
電話は呼び音がわりの音楽がなるばかりで、つながらなかった。
わたしはなんだか少しほっとしながら、ベンチを立った。
立って、また木を眺めた。
こういう気持ちはそれほど長く続かないことを、私は経験から知っているが、だからこそ、もう少し覚えていたかった。

わたしは、ぐずぐずしながら、やがてそこを立ち去った。
帰り道は土手にのぼり舗装された道を戻った。ジョギングと犬の散歩をする人たちと、何人もすれ違ったようだが、あまり良くは覚えていない。
もちろん、病院への帰還は大幅に遅れ、約束の一時間を超えていたが、なぜか看護士は何も言わず「お帰りなさい」と言った。

    22:34 | Trackback : 0 | Comment : 2 | Top
Comment
2008.10.30 Thu 19:49  |  北村 清 #-
 丸尾さんの中にあるアニマが伝わってきました。本当にガラス細工の
ような方なのですね。知恵と勇気と覚悟があればDMは克服可能な疾病
です。丸尾さんには知恵はあるものの勇気と覚悟がやや乏しいかな。
 丸尾さんはどこか清原に似てますね。実力はあっても運に恵まれず
無冠の帝王で終わってしまったあたりが。やはりどんなジャンルでも良いから
まずは賞を取りましょうよ。読売演劇賞でも良いし、もちろん岸田戯曲賞でも
いいし。
 ラジオドラマが得意な人は絶対小説の方が賞に近いと思いますよ。
前田司郎とか岡田利規が小説でノミネートされてますけど演劇人としての
厚みははるかに丸尾さんでしょう。期待してますから。

小説書きましょう!  [URL] [Edit]
2008.11.01 Sat 00:09  |  代表 丸尾聡 #-
ありがとうございます。入院中はコメント見られず、退院して今拝見。
長い事、小説家志望でした。

芝居でがんばりますよ。ありがとうございます。
  [URL] [Edit]







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終了しました
震災による休演もございましたが、劇場の協力を得て代替公演を行ない、予定通りのステージ数を終えました。困難な状況の中ご来場くださったお客様に、心より感謝致します。また、ご協力くださった方々、お心をお寄せくださった皆様にも。本当にありがとうございました。

『死刑執行人
~山田浅右衛門とサンソン』



共同体の和を著しく乱した者は
生きる権利を失う
彼らの存在を世から消す
それが死刑執行人

[会場]
テアトルBONBON
中野駅徒歩5分

[タイムテーブル]
3月9日(水)~15日(火)
9日(水) 19:00
10日(木) 19:00
11日(金) 19:00
12日(土) 14:00
13日(日) 14:00/19:00
14日(月) 14:00/19:00
15日(火) 14:00

詳細は公式サイトでご確認ください
プロフィール

丸尾聡

Author:丸尾聡
○劇作家・演出家・シナリオライター・俳優
○“世の中と演劇するオフィスプロジェクトM”代表


糖尿病演劇人として、日々戦いの毎日
代表作に、戯曲『飯綱おろし』『海峡を越えた女』『離宮のタルト』、オーディオドラマ『バッテリー』『精霊の守り人』『残置物処理班』など

ワークショップ
*開催日程は公式サイト
 ご確認ください

■ベーシック・ワークショップ
 『声のれっすん
俳優志望者・スキルアップを目指す俳優、そして劇作家や演出家とその卵。幅広い演劇人のためのワークショップ。参加申込みは随時。

■戯曲創作ワークショップ
 『劇作のれっすん
構想を戯曲化したい方、書き上げた戯曲をリライトしたい方のため講座。
*短期リライトコース受付中!
 ⇒最終稿まで、面談または
  メール個人指導
*単日セミナー随時開催!

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