ラジオのシナリオ その1
NHKでは、今、オーディオドラマという。
たしかに、NHKの編集室で、巨大なスピーカーから聞くと、これはもうすごい。
ステレオであれば、音響効果は、モノラルで聞くときの倍増どころではないだろう。
昔は、放送劇と言ったはずだ。
いわゆるラジオドラマのこと。
テレビの普及前は、銭湯がカラになる(みんな、銭湯に行っていたのだ、家に風呂がなくて)なんて、ラジオドラマがあったというし、いまだに、世界中で作られ、聞かれている。
日本では、昔、TBSで「夜のミステリー」という枠があり、よく聞いた。
21時からだったかな。風呂場にラジオを持ち込んで。その名の通り、ミステリーが多かったが、五木寛之の「戒厳令の夜」もこの枠ではなかったか。
たしか最近どこかの局が、ラジオドラマの定期放送を始めたが、なんといっても、蓄積と継続があるのは、NHK。
夕方の再放送枠はなくなったが、平日の22時台の連続ドラマ「青春アドベンチャー』と、土曜日夜の「FMシアター」、他にも特集で、年末や夏にラジオでドラマを放送している。
わたしは、この10年で、もっともNHKでラジオドラマを書いている作家の一人らしい。
脚色もあれば,脚本もあるが、だいたい15本くらいは書いて来たはずだ。
(詳細はHPにある。K女史がまとめてくれた。感謝 http://promstage.com/www/J/index.php?option=com_content&view=article&id=81&Itemid=131)
いろんな方との出会いがあり、こうした状況にいたっているのだが、来年の1月にも「サバイバル」の放送が決まった。あの、「ゴルゴ13」さいとうたかを先生の原作のラジオドラマ化だ。
キャストが決まり次第、詳細をお知らせしたいけれど、NHKのHPには、もう情報が出ていた。
私はやはり劇作家だと思ってるのだが、ラジオドラマも、大切なものだ。
戯曲とシナリオは違い、またラジオのシナリオは、また違う。
しかし、台詞を書くという事で言えば、映像のドラマよりも戯曲に近い。
NHKのラジオドラマは、人気の声優さんも出るし、映像が中心の出るのだが、圧倒的に中心は舞台俳優だ。小劇場出身、あるいは小劇場で活躍される方も多い。演劇ファンからすると、これ、夢のコラボじゃん、という組み合わせもある。私なども、それを願って、ディレクターに「理想のキャスティングリスト」を送ったりする。書いている時も、俳優の顔が浮かぶと書きやすいという事情もあるけれど。
その舞台の俳優も、ラジオドラマには出たいよお、という方が多い。台詞を覚えなくていい、拘束が短い、という現実的事情はもちろんあるけれど、ラジオはやはり面白いのだ。
マーケットとして小さい分、密に、そして小回りがきき、好きな企画もできる。
アジア太平洋放送連合ラジオドラマ部門最優秀賞という、長ったらしい賞を頂いた「残置処理班」は、舞台とラジオのコラボで、私の持ち込み企画だった。横浜、東京での公演を終え、長野、松本の地方公演がはじまる間に、番組は放送された。遺品を処理する仕事の「班長」役は、舞台では流山児事務所の甲津拓平が、ラジオでは、二兎社などで存在感を見せつける酒匂芳さんがやってくれた。
ラジオのシナリオのコンクールはかなり頻繁に行われている。
東京、名古屋、大阪、仙台、札幌、こういったNHKの各局がそれぞれ募集をかけている。
ここから、テレビの連続ドラマを書くようになった人も多い。
わたしは、劇作家協会の新人戯曲賞で最終候補に残ったことがきっかけになった。
ぜひ、戯曲を書こうとしている人たちも、チャレンジしてほしいと思う。
だってさ、渡辺美佐子さん、三田和代さんを始め、以下系省略でごめんなさい、先の酒匂芳、鈴木一功、大沢健、若松武史、根岸季衣、旺なつき、山崎銀之蒸、大谷亮介、佐土井けんた、有薗芳記、ベンガルなどなど、ああ、いつか芝居いっしょにやりたいなあと思う俳優陣が、リクエストに応えて、出演頂き、私の書いた台詞を読んでくれたのだから。
これってすごいことだ。
というわけで、シナリオの話を、「覚え書き」ふうに、不定期に、ちょいとずつ書いて行こうと思う。
さて、今回の「サバイバル」 まだ、完全に脱稿した訳じゃないんだが・・・
実は、初めての経験だった。
なにが?
それは漫画原作の脚色。
元々知っている漫画だし、しかもこれは私の提案。
箱を作り(箱、というのは、つまりシナリオの設計図です)、さあ、書きましょうかと書き始めた途端、
あれ? あれれれれ?
文庫版で10冊+Another story 1冊。コンビニなどで売られているワイド版で7冊。
15分10話でおさめるには、半分近いエピソードをカットしなければいけないのは、最初からわかっていたのだが・・・、まったく進まない。
担当のディレクターは、日本一のラジオドラマディレクターと称されるS氏。何本も仕事をして来た私と同い年。
電話をする。
「もしもし」
「ああ、順調ですか」
「大変です。全然書けません」
「・・・」
「どうしましょう」
「問題は、どの辺りでしょう」
「それがわかれば苦労しません」
「落ち着いて考えてみましょう。どいうところでつまるんですか?」
「むう・・・、つまり・・・。どうなんでしょ?」
「いやいやいや。つまり、このコマがいいと。主人公の思いがここにあると。それをどう台詞やナレーションにするか」
「それだ。これね、原作のくせに、主人公が肝心な事をしゃべらんのですよ」
「丸尾さん。それは、原作が漫画だからです」
「がーん」
「がーん」
がーん
やめい。
そうか、そうだったのか。漫画なので、最重要な表現は書いてなくて、描いてあるのだ。
「丸尾さん、漫画原作初めてなんですね」
「は、はい・・・」
「吹き出しのなかの台詞じゃなくて、絵に描かれていることを、書くんです。ラジオですから」
「そうか。そうだったのか。任せろ! はじめにいってくれなきゃあ」
しかし、それは、なかなかに困難な道であった。
考えてみれば、わたしは漫画家になりたかったが、絵が描けないので、作家になったのであった・・・
(続く)
たしかに、NHKの編集室で、巨大なスピーカーから聞くと、これはもうすごい。
ステレオであれば、音響効果は、モノラルで聞くときの倍増どころではないだろう。
昔は、放送劇と言ったはずだ。
いわゆるラジオドラマのこと。
テレビの普及前は、銭湯がカラになる(みんな、銭湯に行っていたのだ、家に風呂がなくて)なんて、ラジオドラマがあったというし、いまだに、世界中で作られ、聞かれている。
日本では、昔、TBSで「夜のミステリー」という枠があり、よく聞いた。
21時からだったかな。風呂場にラジオを持ち込んで。その名の通り、ミステリーが多かったが、五木寛之の「戒厳令の夜」もこの枠ではなかったか。
たしか最近どこかの局が、ラジオドラマの定期放送を始めたが、なんといっても、蓄積と継続があるのは、NHK。
夕方の再放送枠はなくなったが、平日の22時台の連続ドラマ「青春アドベンチャー』と、土曜日夜の「FMシアター」、他にも特集で、年末や夏にラジオでドラマを放送している。
わたしは、この10年で、もっともNHKでラジオドラマを書いている作家の一人らしい。
脚色もあれば,脚本もあるが、だいたい15本くらいは書いて来たはずだ。
(詳細はHPにある。K女史がまとめてくれた。感謝 http://promstage.com/www/J/index.php?option=com_content&view=article&id=81&Itemid=131)
いろんな方との出会いがあり、こうした状況にいたっているのだが、来年の1月にも「サバイバル」の放送が決まった。あの、「ゴルゴ13」さいとうたかを先生の原作のラジオドラマ化だ。
キャストが決まり次第、詳細をお知らせしたいけれど、NHKのHPには、もう情報が出ていた。
私はやはり劇作家だと思ってるのだが、ラジオドラマも、大切なものだ。
戯曲とシナリオは違い、またラジオのシナリオは、また違う。
しかし、台詞を書くという事で言えば、映像のドラマよりも戯曲に近い。
NHKのラジオドラマは、人気の声優さんも出るし、映像が中心の出るのだが、圧倒的に中心は舞台俳優だ。小劇場出身、あるいは小劇場で活躍される方も多い。演劇ファンからすると、これ、夢のコラボじゃん、という組み合わせもある。私なども、それを願って、ディレクターに「理想のキャスティングリスト」を送ったりする。書いている時も、俳優の顔が浮かぶと書きやすいという事情もあるけれど。
その舞台の俳優も、ラジオドラマには出たいよお、という方が多い。台詞を覚えなくていい、拘束が短い、という現実的事情はもちろんあるけれど、ラジオはやはり面白いのだ。
マーケットとして小さい分、密に、そして小回りがきき、好きな企画もできる。
アジア太平洋放送連合ラジオドラマ部門最優秀賞という、長ったらしい賞を頂いた「残置処理班」は、舞台とラジオのコラボで、私の持ち込み企画だった。横浜、東京での公演を終え、長野、松本の地方公演がはじまる間に、番組は放送された。遺品を処理する仕事の「班長」役は、舞台では流山児事務所の甲津拓平が、ラジオでは、二兎社などで存在感を見せつける酒匂芳さんがやってくれた。
ラジオのシナリオのコンクールはかなり頻繁に行われている。
東京、名古屋、大阪、仙台、札幌、こういったNHKの各局がそれぞれ募集をかけている。
ここから、テレビの連続ドラマを書くようになった人も多い。
わたしは、劇作家協会の新人戯曲賞で最終候補に残ったことがきっかけになった。
ぜひ、戯曲を書こうとしている人たちも、チャレンジしてほしいと思う。
だってさ、渡辺美佐子さん、三田和代さんを始め、以下系省略でごめんなさい、先の酒匂芳、鈴木一功、大沢健、若松武史、根岸季衣、旺なつき、山崎銀之蒸、大谷亮介、佐土井けんた、有薗芳記、ベンガルなどなど、ああ、いつか芝居いっしょにやりたいなあと思う俳優陣が、リクエストに応えて、出演頂き、私の書いた台詞を読んでくれたのだから。
これってすごいことだ。
というわけで、シナリオの話を、「覚え書き」ふうに、不定期に、ちょいとずつ書いて行こうと思う。
さて、今回の「サバイバル」 まだ、完全に脱稿した訳じゃないんだが・・・
実は、初めての経験だった。
なにが?
それは漫画原作の脚色。
元々知っている漫画だし、しかもこれは私の提案。
箱を作り(箱、というのは、つまりシナリオの設計図です)、さあ、書きましょうかと書き始めた途端、
あれ? あれれれれ?
文庫版で10冊+Another story 1冊。コンビニなどで売られているワイド版で7冊。
15分10話でおさめるには、半分近いエピソードをカットしなければいけないのは、最初からわかっていたのだが・・・、まったく進まない。
担当のディレクターは、日本一のラジオドラマディレクターと称されるS氏。何本も仕事をして来た私と同い年。
電話をする。
「もしもし」
「ああ、順調ですか」
「大変です。全然書けません」
「・・・」
「どうしましょう」
「問題は、どの辺りでしょう」
「それがわかれば苦労しません」
「落ち着いて考えてみましょう。どいうところでつまるんですか?」
「むう・・・、つまり・・・。どうなんでしょ?」
「いやいやいや。つまり、このコマがいいと。主人公の思いがここにあると。それをどう台詞やナレーションにするか」
「それだ。これね、原作のくせに、主人公が肝心な事をしゃべらんのですよ」
「丸尾さん。それは、原作が漫画だからです」
「がーん」
「がーん」
がーん
やめい。
そうか、そうだったのか。漫画なので、最重要な表現は書いてなくて、描いてあるのだ。
「丸尾さん、漫画原作初めてなんですね」
「は、はい・・・」
「吹き出しのなかの台詞じゃなくて、絵に描かれていることを、書くんです。ラジオですから」
「そうか。そうだったのか。任せろ! はじめにいってくれなきゃあ」
しかし、それは、なかなかに困難な道であった。
考えてみれば、わたしは漫画家になりたかったが、絵が描けないので、作家になったのであった・・・
(続く)